ツイードジャケットの裏仕立て

秋冬シーズンが待ち遠しく、ようやくツイードジャケットを仕立てる気分になれるほどな朝晩の涼しさがやってきました。ツイードの服地は、ハリスツイードをはじめざっくりとした織り感があり、重めで、カシミアやSuper表示される繊細でなめらかな肌触りの生地とは反対に、ジャケット内でも摩擦が大きいためと、カタメな生地の着用感から裏地は総裏仕立てにすることが多いジャケット服地。
もともとが防寒目的の作業用、アウトドアの過酷な環境にも負けないほどな丈夫な素材がウリのツイード生地なので、暖かさ重視で総裏仕立ては当たり前とお考えの方もいらっしゃるかもしれないのですが、オールシーズン向きと言われる背抜き仕立てとして、ベストやその他インナーで調整するというのも、いまどきなコーディネート方法です。
また、ツイードジャケットの裏仕立てにも、オーダージャケットならではの装飾的デザインや機能的デザイン、たとえばジャケットの見返しと裏地の境に指定色の裏地でパイピング処理を施したり、ペンポケットやタバコポケット、サイズを調整した携帯電話やスマートフォン用ポケット、裏地そのものをキュプラ裏地とする色指定などというのも、オーダーならではのカスタマイズデザインです。
ヘリンボーングレーのハリスツイードジャケットの裏地を赤、見返しとの境に挟み込むパイピングを黒なんて、ちょっとかっこ良すぎる気もします^^

ツイードスーツを山歩きなどアウトドアスポーツ用に

昔はいまのように丈夫なハイテク素材といわれるような便利なものがなかったので、すべて基本は天然素材。ウールやコットン、シルク、リネンなどの混紡の割合を変えたり、厚み、織り方を変えたりなどのほか、縮絨といわれる生地の組織を密にしたり、地厚にする、目付けを増やす目的に行われる加工を施し、自分が理想とする服地を作り上げるしか方法がありません。
ハリスツイードやドネガルツイードをはじめ、ツイードの多くが本来作業用、防寒目的で作られた、アウトドア向きな服地なため、その生地表面は硬く、その硬さを得るために必須のツイード川の軟水が豊富に得られる、ツイード川流域で、多くのツイード服地の産地が起こったともいえます。
カントリーツイードのなかでも、ひときわその丈夫さに定評があり、ハードな山歩きの際にも植物のとげさえ寄せつけない打ち込みの強さで守ってくれる、「ソーンプルーフ」は、カントリーマンには必須のアイテム。「ソーンプルーフ」はポーター&ハーディングという1947年にカントリースポーツ好きなジョン・ポーターとビル・ハーディングの2人によって創業されたカントリーツイードを得意とする英国のマーチャント。
本来の重めな目付けのソーンプルーフのほか、街着に適した軽めのラインもあります。

ドニゴールツイード、英国製エイブラハム・ムーン

毛織物の製織でも歴史のある英国のなかでも、常に名門の老舗として名を上げられるエイブラハム・ムーン(Abraham Moon&Sons)が創業したのは1837年と古く、ウール製品を中心に製造をしています。
この秋冬シーズンには、Pitty Savile Rowでも、このエイブラハム・ムーン社のツイード生地を厳選5柄新入荷させていただいております。ハリスツイードやマギー社のドネガルツイードに比べると、1平方メートルあたりの重さを基準とする目付けが400~480g程度なのに対して、350g~375gと軽く、優しい織り上がりとなっているので、より街着としてのツイードジャケットとして、また、小柄な女性向きや、ツイードジャケットのざっくりした野趣ある仕上がり感にやわらかさが欲しいオーダージャケットにおススメ。ヘリンボーンの巾も1.1cm程度と細めなため、ツイードの仕上がり感をプラスしたレディースジャケットには好相性と付け加えさせていただきます。。
ツイードといえば、ハリスツイードがまず一番の代名詞。つぎに来るのはやはりドネガルツイード(ドニゴールツイード)でしょうか。このドネガルツイードの語源ともなったドネガル川は川の水が軟水であることから、ツイード製織後の仕上げに使われる際、硬めの生地とするのにとても適していることから。

パッチポケットをツイードジャケットに付ける

ビジネススーツや、すこしかっちりめのジャケットに一般的に付けられるポケットがフタ付きの切りポケット(ポケット口に切り込みがあり、袋布が取り付けられているもの)とするなら、カジュアル色の強い、ハリスツイードやカシミア混、フラノやメルトンのジャケットには、ジャケットの表生地に貼り付けられるデザインとなるパッチポケットは、よく馴染みます。
このパッチポケットの形は、とても種類が豊富で、単純にジャケットと共生地を外側に貼り付けたものや、パッチポケットの形を真四角としたり、台形のほか、このアウトポケットは物入れのために、つけられているのではなく、主に飾りである意味合いが強いのですが、外付けの袋部分に、プリーツを内側の箱ヒダとなるように付けたり、逆の外ヒダで付けるなど、凝ったものも多く見かけます。
このアウトポケットに対して、フタを付けたり、そのフタをボタン止めとするというデザインもよりカジュアル度の高いジャケットとしては定番のデザインです。こういったデコラティブなデザインは、春夏ものの薄手なものでするよりも、ハリスツイードやドネガルツイードなどのがっしりとした目付けの厚地のもので装飾すると、フタも厚地で主張があり、ポケットそのものの存在感もよりアップ。せっかくの、アウトポケットデザインをより効果的に楽しめます。

ホーランド&シェリーのツイード

ホーランド&シェリー(HOLLAND & SHERRY)は170年以上にわたり、最高品質のオーダー服地を提供してくれる英国の老舗マーチャント。その扱い生地はとても幅広く、夏にはリネン100%の生地となるSouth Pacific Pure Linenが、とても人気。
また、これからの秋冬シーズンには、ハリスツイードを独自にセレクトして収集した、ハリスツイードカタログをはじめ、ざっくした織り感と野趣ある風合いのツイード生地も数多いラインナップがありますが、なかでも明るめな色柄が多いシェリーツイードは、目を引かれるものが多く、目付けも310~350g程度と、ハリスツイードやドネガルツイードよりも軽めなため、明るく軽快な色合い、都会的センスの色柄等から、ハリスツイード等のツイード生地とは、また着用シーズンを変えた楽しみ方をできるのではと思います。。
オレンジやダークレッド、定番のネイビーやグレーはもちろんですが、ライトブルーなど、1トーン明るめなミックス織り。深い色表現を可能としています。ホームスパンに見られる色ネップも鮮やかな色が多く、かといってヘリンボーンやガンクラブチェック等定番中の定番のクラシックパターンも好みを探すことができる、64柄のシェリーツイードは、秋冬シーズン見逃せない、一押し、関心度の高いツイード服地。

ハリスツイードなど輸入生地価格と消費増税

今年、平成26年4月よりの消費増税に加え、ハリスツイードなど輸入生地価格が、若干の値上がり。商社のユーロ外貨建て取引の影響らしいのですが、あまり難しいことはわかりません。秋冬シーズンに人気のこのハリスツイードやドネガルツイードの生地価格にもその影響は明らかに出ており、少々の生地価格なら同じお仕立て上り価格で・・という、自分の懐具合はまったく無視し、向こう見ずな太っ腹の姿勢を常に見せるオーダースーツ店・店主ですが、今回ばかりは・・。
とにかく消費税の5→8%、この差額3%というのが悩ましいですね。8月中旬の今頃というと、夏の終わりから秋口にかけてご着用になる春夏スーツ、なかでも若干生地目付けが重め、目詰まりの良いオールシーズン向けな生地となるのですが、ハリスツイードは生地の知名度もあり、人気も高い服地なので、どうせ仕立てるなら、長いシーズンを着たいのはどなたも考えることらしく、早めにご案内しておけば・・というところです。。
今年の生地柄の中で目立つのは、タータンチェックと言われる、イギリス伝統の織り柄の中でも、明るめな発色の良いもの。あまり素人向けではなさそうですが、ベストなんかにするといいのかも・・と思ってしまう生地ですね。
あとは、もうこれははずせない定番中の定番な、ヘリンボーンやガンクラブチェック。手始めにまず1着持つなら、このオーソドックスな色柄がおススメ。

トラッドなタータン柄ツイード

タータンチェックの定義はと言われるとなかなか適当な言葉が見つからず、なんとなくグリーンと黒の格子柄が規則的に並び、その格子柄を大きく囲むようにプレイドと言われる大格子柄があるイメージ。イギリスのバッキンガム宮殿の衛兵のはく衣装が、それでブラックウォッチタータンが、まず頭に浮かぶタータンチェックです。
このタータンチェックと、今がまだ夏なのでコットンで作られることが多いマドラスチェックとの違いについてもまた難しいところで、マドラスチェックのほうが、規則的な格子でなく色使いも明るめで・・、というところだろうか。
この秋冬シーズンに新入荷したハリスツイードのジャケット生地の中には、このタータンチェックと言われるブラックウォッチ以外、赤やオレンジ、黄色などとかなりカラフルな色使いで織り上げられたタータン柄のツイード生地が目に付きます。もちろん、ハリスツイードといえば、ジャケットとなるように、こういった少しハデ目なタータン柄ツイードの生地でジャケットをオーダーもいいと思うのですが、挿し色的なオッドベストも、全体的に落ち着いたトーンのものが多く、素朴で、見た目もざっくり感があり野趣ある風合いのカタメの服地といわれるハリスツイードジャケットにプラスする同素材アイテムとして、ベストがとても人気があることを考えると、頭の隅に入れておきたい2014~15年秋冬のコーディネートですね^^

レディースだってツイードジャケットを着る

女性の社会進出というのはもう当たり前で、男性と同じように仕事をする人が多く、学歴も高くそして婚期も遅くとなると、とうぜんメンズジャケットと同じ需要がレディース用のジャケットにもあり、それはハリスツイードやドネガルツイードなどツイードジャケットが選ばれる機会も多くなっています。
男性のショップ店員目線から言わせていただけば、メンズスーツのジャケット丈が短くなりヒップを露出度アップ、袖巾も狭くバストまわりもタイトになっていくら肉感的なフォルムを構築してくれても少しもうれしいことはなく、そんなことよりレディーススーツの着丈が短く、ヒップが露出する光景を目の当たりにすることこそ、つい口元がゆるむというのは誰もが持つ同様の感情ではないだろうか。しかもストレッチで体の線が見えてしまうほどなタイトなスーツは、本当にこれでいいのかと思ってしまいます。
これらはまったくの余談ですが、ジャケットがツイードという場合、レディースの場合にはこのボトムスに同じツイード素材を用い、ジャケット+スカートで仕立てるハリスツイードスーツというコーディネートがあることを忘れてはなりません。
品質が良く暖かく、クラシカルで仕立て上がりのイメージも良い、しかもお仕事用に使っていただいても厚地、ざっくり感があるためにあまりシワも目立たない服地は、秋冬レディース、キャリアスーツにはとてもおススメです。

ツイードベストのデザイン

ニットのベストなどというと学校の先生がスーツの中衣として寒い校舎の中で着る防寒着、グレーやネイビーの地味なスーツ色の差し色として、奥さんが若々しさを演出してくれているようなアイテムを勝手にイメージしてしまう。きっと、あまりおしゃれなイメージは浮かばないアイテムがニットベストということなんだと思います。
ハリスツイードやドネガルツイードなど生地そのものにボリューム感があるアイテムでは、一般的にハリスツイードジャケットを仕立てる以外に、帽子や小物類などを市販品として販売しているショップもあるぐらい。実際、色柄も素朴でありながら惹かれるところが多い、ツイード服地のクラシック柄は、ベストにしてもその存在感は大きなものとなるはずです。
とにかく暖かで知られているハリスツイードなどツイード生地なので、ベストとしても暖かのは間違いありませんが、ベストにもいろいろな形、そして胸ポケット、腰ポケットなど種類も豊富。ビジネススーツに合わせるベストなら胸ポケットなしも、これをジャケットデザインなどと同様アウトポケットにしたり、フタ付きポケットにしたり、腰ポケットも同じデザインのものを付けると落ち着きがいいです。
その他、ダブルベスト、シングルで衿付きベスト(ラペルドベスト)など、秋冬のジレパンファッションという楽しみ方もありそうです。

ツイードジャケットにステッチを入れる

ジャケットに入れるステッチはビジネススーツには入れないことがお仕事用スーツ標準だったりすることもありますが、ステッチを入れるとするなら、比較的目立たず大人しめに入れる衿端に入れるコバステッチというもの。この場所に入れるステッチは、ミシンステッチでもセンス良く入ります。
ステッチを入れる箇所は、フロントステッチという場合、上衿(カラー)・下衿(ラペル)・フロント線・胸ポケット・腰ポケットというのが一般的で、これに総ステッチというと更にステッチの入る場所が増え、肩線・背縫い線・袖後ろ・ベント・フロントダーツとなり更にデコラティブなものに。
ツイードジャケットの中でも、ハリスツイードのようなざっくりした紡毛織物にステッチは目立たず、衿端などのコバステッチを入れたとしても、あるのかさえわからないほど。こういったツイード生地に入れるステッチは、縫製上許されるのならできるだけ太糸で衿端やフロント線よりも内側、しかも1本線でなくダブルステッチ、レールステッチなどよりアクセント度を高めるような工夫が必要です。
ハリスツイードジャケットなどの場合でも、無地系のものならステッチも効果がありますが、ガンクラブチェックなど多くの色柄を持つ近年のツイード生地などでは、衿のエッジをきれいに保つための端押さえ程度のつもりで入れるのが正解です。