年別アーカイブ: 2013年

ツイードジャケットの腰ポケットにアウトポケット

カントリー調だとかスポーティーなジャケット、カジュアル用に・・と、ビジネスや制服向きなデザインとは少し別な使い道をされるジャケットに、定番ともいえるのがアウトポケット。ビジネス標準の四角いフタの付いたポケットは、切り込みがある切りポケットと言われるのに対して、外(アウト)に貼り付けられたという様子から、アウトポケットとかパッチポケットと言われるもの。
ツイードジャケットがカントリー調といわれるのは、ハリスツイードやドネガルツイード、アイリッシュツイードなどツイード織物が、紡毛繊維という太く短い繊維でざっくり織られた野趣あふれる織物であるということ。スポーティーは、狩猟用のハンティングジャケットやシューティングジャケットなど、その昔、貴族など上流階級に好まれたスポーツに多く用いられた丈夫な素材であったことから。
アウトポケットにも数種類の形があり、単純に貼り付けたものから、フタ付きとするもの、フタ付きで釦止めなど。また、多くは腰位置のウエストポケットのみをアウトポケットとするのですが、胸位置のチェストポケットまでをアウトとする3パッチポケットもよりカジュアル感が増し、ツイード素材とはよく合います。

ハリスツイードに定番なヘリンボーン

ハリスツイードには無地やチェック柄など、素朴な風合いを生かす、あまり複雑でないどちらかといえば古典柄といえる織り柄を多く見ます。特に、その中でも好相性。ハリスツイードジャケットに限ったことではありませんが、秋冬ならドネガルツイード、春夏のコットンにも、無地に加えてなにか・・というとき、必ず目にするのがこのヘリンボーン
このヘリンボーンは日本名でいうところの「杉綾」で、その織り目が杉の葉のように見えるところから。ヘリンボーンはそのまま「ニシンの骨」と訳せます。
最もオーソドックスなハリスツイード、まず思い浮かぶのがチャコールグレーのハリスツイードジャケット。ワントーン、グレーを明るめにしたライトグレーや、茶+黒や、ブルー+黒の2色で構成されたヘリンボーンのハリスツイードジャケットというのも例年見る色柄かも知れません。
とにかく長持ちするハリスツイードは、コート代わりのアウターとしても最適なので、個人的な1着はやはり色が濃い目のチャコールグレーのジャケットですね。
目付けといわれる1平方メートル当たりの重さであらわすと、ハリスツイードはやはり重めで400gと480gの2種類。グレーのヘリンボーン柄はどちらの目付けでも用意がされているので、コート用、ジャケット用、あとは個人のお好みで軽めに着たい、防寒着としてなら、裏仕立ても合わせてオーダー時に考えてみたいところです。

ハリスツイードのロングジャケット

装いの良い大人の紳士が冬の寒い時期、フォーマルスーツの上に着用している外套といえばその素材はカシミヤで、色は黒かグレーといったところでしょうか。
これに比べて素材がハリスツイードとなると、カシミヤと同じ程度の暖かさをもつ高級服地という点では同じですが、ぐっとカジュアル感が増してしまいます。それは、やはり極寒の船の上で、作業に従事する漁師さんを暖かく保つためという、ワークウエア的な起源のためかも知れません。
ざっくり織られた厚地なハリスツイード生地の中に取り込まれる空気が、衣服の中を暖かに保ってくれるので、コートほどの長い着丈でなくとも、通常ジャケット着丈でもハリスツイードジャケットなら暖冬傾向な近年の秋冬には十分すぎるほど。
コート丈の基準を着丈100cmとするなら、一般にロングジャケットされる着丈は、ご愛用ジャケットの着丈+15cm程度がバランスの良いものです。カスタムテーラーとしては、ハリスツイードのような値のはる生地を、長めな着丈でいただくご注文は、厳しいところだと思うのですが、多くのテーラーで85cm程度までは、通常ジャケット工賃で仕立てるところが多いので、ドライビングコート、半コート的な感覚で着用するロングジャケットというのが狙い目かも知れません。

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ホームスパン

ホームスパンとは、家庭で人の手によって紡がれ、手織りされたツイードのことで、現在多くの人々に愛用されているハリスツイードドネガルツイードなどの原点となるツイードの織り方。織物そのものをいう場合もあります。
家庭で手織りされるツイード・ホームスパンは全てが手作業で織り上げられます。まず、羊から刈り取られた羊毛の原毛は、ゴミなど不純物を取り除かれた後、石鹸でよく毛洗いされ、染色。カード機で毛の繊維を引き揃えるカーディング作業の後、糸車を回転させ行われる糸の手紡ぎ。抒を用い、太さのムラなどを調整しながら手織りされていきます。この繊維の太さにムラのあるところがホームスパンの特徴的なところで、生地表に自然で素朴な風合いとなるネップ(節)を生み出し、色の染め上がりを野趣あるものとしています。
織り上げられたあとは、縮絨をすることで糸の目を詰まらせ、生地を安定させたあと、織り上がり製品として丁寧にアイロンをかけ、巾などを揃えられます。
ホームスパンは、手織りのツイード生地をさすことから、その範囲は広いものとなりますが、その中でもホームスパンの代名詞としてあげられるほど認知度の高いツイードがドネガルツイード。ドニゴール川で手洗いされ、織られるドネガルツイードは、このアイルランドのドニゴール地方の農家で織られるホームスパンです。
アイリッシュツイード、ナップツイードなど、ドネガルツイードと同義。

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世界に輸出されるハリスツイード

ハリスツイードは、スコットランドの端、アウターヘブリディーズの小さな島から世界各国およそ50カ国に輸出されています。アウターヘブリディーズの織物工場で働いている職人は250人以上を数え、古くから取引のあるヨーロッパや北アメリカ、極東の市場のほか、近年ではロシア、ブラジル、インドや中国など力強く新興発展する諸外国も名前を連ねます。世界各国で国際的に認められた登録商標は30カ国以上。
ハリスツイードの用いられ方は、メンズのジャケットをはじめ、オーダージャケット、前衛的なデザインによって仕立てられたファッションスタイルなど。
特にオーダースーツで仕立てられることが多いデザインは、やはりハリスツイードジャケット。エコなウォームビズを希望するファッションスタイルからは、上下スーツやベスト付きのスリーピーススーツも。デザインでは、背バンドや人工皮革エクセーヌを付けたエルボーパッチガンパッチなど、衿タブも人気のようです。
実用的な普段着、自分が着用するために織られていた程度のハリスツイードは、その品質管理の徹底から独自のブランドを築き、今でもツイードと呼ばれる生地の中でも最高位といえる地位を守り続けています。

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ハリスツイードの歴史

ハリスツイードは太古の昔から、スコットランドのアウター・ヘブリディーズの住民たちに織られていた、土地に根ざした民族の衣服、普段着でした。
この美しくて複雑な織り柄をした織物は、長い間優れた、贅沢な織物として知られていましたが、19世紀の中ごろまで、この
ハリスツイードは、地元住民が自分用に織って着用したり、地元市場でのみ流通されるのみに止まっていました。
このハリスツイードを産業として確立し、市場に広めることに尽力したのは、この島の領主ダンモア伯爵の未亡人、ダンモア夫人であったと言われています。
ダンモア夫人は、タータン柄をハリスツイード職工に複製させ、一族、友人らと共に、この島特産の布にすぎなかったハリスツイードをイギリス全土の商人が商う認知度の高い生地として育てあげました。
ハリツイードが広く知られるようになると、多くの人々に求められはじめ、1903年~1906年の間には新しい紡績工場の建設など工業化がすすむなか、アウター・ヘブリディーズ島の成功を利用しようとする人たちから、ハリスツイードの信用をそのイミテーションから護るために設立されたのが、ハリスツイード協会です。
1966年には生産は760万ヤードのピークに達し、王族や紳士階級、ハリウッドの映画スター、多くの有名なファッションデザイナーにまで愛されたハリスツイードは、赤じゅうたんやキャットウォークを華やかに飾ります。スコットランドの小さな島から生まれたハリスツイードは20世紀中ごろまでには、時間を超越した古典的な織物としての地位を確立したといっても良いでしょう。

ハリスツイード・ジャケット
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