ハリスツイードとドネガルツイードを比べてみる

服地の織り方はなかなか微妙で、素人が見てもわかりづらいことが多いですよね。ツイードなどだいたいざっくり織ってあるような厚地の織物はみーんなツイードといってしまうことがあり、綾織り(ツイル)の語源がツイードなど、忘れてしまうほどです。
ウォームビズ人気も高まってきているせいか、ツイード、なかでもハリスツイードやドネガルツイード(ドニゴールツイードという場合もあります。)は、特に雑誌等で目にすることが多くなる秋冬の入り口ともなる9月ですね。
実際、この二大ツイードのさわり心地とか、見た目とかを比較検討してみることにしました。もちろん、自分がジャケットオーダーすること前提で。
ハリスツイードは、差し毛とか死に毛といわれる、最も外側に生える白髪のような外毛にちくちく感もあり、若干硬い感じがします。また、織り柄もまったくオーソドックスで、ヘリンボーンもグレーや濃い目のグレー、ネイビーの濃淡、せいぜいがガンクラブチェックといったところ。これに対して、ドネガルツイードは、ホームスパンといわれるいわゆる手紡ぎ、手織りはハリスツイードと同じですが、ほんわかアンカットパイルのような織りに、ネップといわれる染ムラなどのイレギュラー感もあり、ハリスツイードよりは優しい肌触りのような印象を受けました。
ハリスツイードは、漁師さんが船の甲板の上など、厳しい寒風にさらされるなかの生活着からのものなので、より丈夫にできているのか・・というのが感想です。

ツイードで仕立てるスリーピーススーツ

ツイードは多くの織物がそうであるように、生産される地域に密着したもの。生活風土の必要性から需要があり、生産されていたもののうち、品質の確かなもの、商業的に成功したものが広く広まりました。
その代表的なものはやはり、ハリスツイードといわざるをえません。独特の重量感、その生地の風合い、検査機関であるハリスツイード協会が認定したものだけに与えられる生地マークは信頼の証です。
ツイードの本来の意味は、手紡ぎの紡毛糸を手織りで綾織りに織った、英国スコットランド特産の綾織物のことをいいますが、現在ではざっくりとした太糸で織られた厚手でカントリー調の織物のことをすべてツイードと呼ぶことが多くなっています。
こういったハリスツイードやドネガルツイードなどアイリッシュツイードのような厚手な織物は、コート、ジャケットなどアウターとしての用途に向いた素材と思われがちですが、近頃ではウォームビズというようなエコな志向とも重なり、ベスト付きスリーピーススーツとしてご新調になる方も増えてきています。ツイードが英国生まれ、ブリティッシュ仕様なクラシックなモデルの人気が戻ってきており、加えてどうせなら、イギリス的にいうところのウエストコートを加えたベスト付きスリーピーススーツで、かっこ良く暖かくというところかも知れません。

初めてのツイードジャケット

20代前半でツイードジャケットというのは、おじさん臭いのかも知れない。20数年前の当時、今ほど男性ファッションについての衣類を購入する場所が限られており、トレンドな若者ファッションと一線を画し、ちょっと違った大人の雰囲気を出したいと思うなら、テーラードのスーツ店とか、メンズファッション専門店の看板を掲げる、パンチパーマがよく似合うスウィングトップやブルゾンなどを売っている店しかなかったような気がする。
個人的なツイードのデビューも、そんなカスタムテーラーが店の脇に置いてあった、若干ホコリをかぶっていそうな白黒2色のツイードジャケット。その白い部分が黄ばんでしまってから以降もずいぶん捨てられずに残されていたのは、定価¥52000を半額の¥26000で購入したとは言っても、かなりフンパツした衣装購入だった記憶が強いせいかも知れない。
その白黒ジャケットは、織りはカーペットのようなループ状の織りをしているのですが、その頃はその織り柄を白黒のドット調の織物だったところから、それを千鳥格子か、バーズアイのつもりで購入したように思います。
仕立てはかなりしっかりとしており、生地も重くずっしりなツイードジャケット。はじめはほとんど着ることがなかったのですが、白黒のモノトーンはボトムスを選ばずにコーディネートでき、またところどころ不規則に入っているネップも気に入るようになり、初めてのツイードジャケットとしては、まずまずなところでした。

スポーティーなツイードジャケットにエルボーパッチ

ハリスツイードやドネガルツイードなどのツイード素材で仕立てられたジャケットがスポーティーという言葉を、子供のころファッション雑誌などに見かけると、不思議な感じがしたのを覚えている。
テーラードのジャケットなのにも関わらず、カジュアルならまだしもスポーティージャケットといわれるのは、その昔、このツイード素材を用いて仕立てたジャケットが狐狩りや鹿狩りなどのハンティング用のジャケットとして、または、銃を使ってする的当て競技、シューティング用ジャケットとして用いられていたため。
これらハンティングジャケットやシューティングジャケットのディテールとしてその機能的な役割をもつエルボーパッチ、近年では本革で作られることは少なく、その縫製上の理由から人工皮革、例えばエクセーヌなどと言われるもので付けられる。エルボーパッチはいわゆる肘当て、肩当てとなるガンパッチも同様で、銃を構えたときに銃の台座が当たる部分をガードするためのもの。
ハリスツイードをはじめとしたツイードジャケットは、紡毛糸といわれる太く短い繊維を用いて織られた紡毛織物のため、丈夫で防寒着としてのアウターの役目も十分果たしてくれるものため、スポーティーなジャケットといえば、いまだにツイードジャケットと言われる理由がある。

ツイードジャケットの腰ポケットにアウトポケット

カントリー調だとかスポーティーなジャケット、カジュアル用に・・と、ビジネスや制服向きなデザインとは少し別な使い道をされるジャケットに、定番ともいえるのがアウトポケット。ビジネス標準の四角いフタの付いたポケットは、切り込みがある切りポケットと言われるのに対して、外(アウト)に貼り付けられたという様子から、アウトポケットとかパッチポケットと言われるもの。
ツイードジャケットがカントリー調といわれるのは、ハリスツイードやドネガルツイード、アイリッシュツイードなどツイード織物が、紡毛繊維という太く短い繊維でざっくり織られた野趣あふれる織物であるということ。スポーティーは、狩猟用のハンティングジャケットやシューティングジャケットなど、その昔、貴族など上流階級に好まれたスポーツに多く用いられた丈夫な素材であったことから。
アウトポケットにも数種類の形があり、単純に貼り付けたものから、フタ付きとするもの、フタ付きで釦止めなど。また、多くは腰位置のウエストポケットのみをアウトポケットとするのですが、胸位置のチェストポケットまでをアウトとする3パッチポケットもよりカジュアル感が増し、ツイード素材とはよく合います。

ハリスツイードに定番なヘリンボーン

ハリスツイードには無地やチェック柄など、素朴な風合いを生かす、あまり複雑でないどちらかといえば古典柄といえる織り柄を多く見ます。特に、その中でも好相性。ハリスツイードジャケットに限ったことではありませんが、秋冬ならドネガルツイード、春夏のコットンにも、無地に加えてなにか・・というとき、必ず目にするのがこのヘリンボーン
このヘリンボーンは日本名でいうところの「杉綾」で、その織り目が杉の葉のように見えるところから。ヘリンボーンはそのまま「ニシンの骨」と訳せます。
最もオーソドックスなハリスツイード、まず思い浮かぶのがチャコールグレーのハリスツイードジャケット。ワントーン、グレーを明るめにしたライトグレーや、茶+黒や、ブルー+黒の2色で構成されたヘリンボーンのハリスツイードジャケットというのも例年見る色柄かも知れません。
とにかく長持ちするハリスツイードは、コート代わりのアウターとしても最適なので、個人的な1着はやはり色が濃い目のチャコールグレーのジャケットですね。
目付けといわれる1平方メートル当たりの重さであらわすと、ハリスツイードはやはり重めで400gと480gの2種類。グレーのヘリンボーン柄はどちらの目付けでも用意がされているので、コート用、ジャケット用、あとは個人のお好みで軽めに着たい、防寒着としてなら、裏仕立ても合わせてオーダー時に考えてみたいところです。

ハリスツイードのロングジャケット

装いの良い大人の紳士が冬の寒い時期、フォーマルスーツの上に着用している外套といえばその素材はカシミヤで、色は黒かグレーといったところでしょうか。
これに比べて素材がハリスツイードとなると、カシミヤと同じ程度の暖かさをもつ高級服地という点では同じですが、ぐっとカジュアル感が増してしまいます。それは、やはり極寒の船の上で、作業に従事する漁師さんを暖かく保つためという、ワークウエア的な起源のためかも知れません。
ざっくり織られた厚地なハリスツイード生地の中に取り込まれる空気が、衣服の中を暖かに保ってくれるので、コートほどの長い着丈でなくとも、通常ジャケット着丈でもハリスツイードジャケットなら暖冬傾向な近年の秋冬には十分すぎるほど。
コート丈の基準を着丈100cmとするなら、一般にロングジャケットされる着丈は、ご愛用ジャケットの着丈+15cm程度がバランスの良いものです。カスタムテーラーとしては、ハリスツイードのような値のはる生地を、長めな着丈でいただくご注文は、厳しいところだと思うのですが、多くのテーラーで85cm程度までは、通常ジャケット工賃で仕立てるところが多いので、ドライビングコート、半コート的な感覚で着用するロングジャケットというのが狙い目かも知れません。

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ホームスパン

ホームスパンとは、家庭で人の手によって紡がれ、手織りされたツイードのことで、現在多くの人々に愛用されているハリスツイードドネガルツイードなどの原点となるツイードの織り方。織物そのものをいう場合もあります。
家庭で手織りされるツイード・ホームスパンは全てが手作業で織り上げられます。まず、羊から刈り取られた羊毛の原毛は、ゴミなど不純物を取り除かれた後、石鹸でよく毛洗いされ、染色。カード機で毛の繊維を引き揃えるカーディング作業の後、糸車を回転させ行われる糸の手紡ぎ。抒を用い、太さのムラなどを調整しながら手織りされていきます。この繊維の太さにムラのあるところがホームスパンの特徴的なところで、生地表に自然で素朴な風合いとなるネップ(節)を生み出し、色の染め上がりを野趣あるものとしています。
織り上げられたあとは、縮絨をすることで糸の目を詰まらせ、生地を安定させたあと、織り上がり製品として丁寧にアイロンをかけ、巾などを揃えられます。
ホームスパンは、手織りのツイード生地をさすことから、その範囲は広いものとなりますが、その中でもホームスパンの代名詞としてあげられるほど認知度の高いツイードがドネガルツイード。ドニゴール川で手洗いされ、織られるドネガルツイードは、このアイルランドのドニゴール地方の農家で織られるホームスパンです。
アイリッシュツイード、ナップツイードなど、ドネガルツイードと同義。

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世界に輸出されるハリスツイード

ハリスツイードは、スコットランドの端、アウターヘブリディーズの小さな島から世界各国およそ50カ国に輸出されています。アウターヘブリディーズの織物工場で働いている職人は250人以上を数え、古くから取引のあるヨーロッパや北アメリカ、極東の市場のほか、近年ではロシア、ブラジル、インドや中国など力強く新興発展する諸外国も名前を連ねます。世界各国で国際的に認められた登録商標は30カ国以上。
ハリスツイードの用いられ方は、メンズのジャケットをはじめ、オーダージャケット、前衛的なデザインによって仕立てられたファッションスタイルなど。
特にオーダースーツで仕立てられることが多いデザインは、やはりハリスツイードジャケット。エコなウォームビズを希望するファッションスタイルからは、上下スーツやベスト付きのスリーピーススーツも。デザインでは、背バンドや人工皮革エクセーヌを付けたエルボーパッチガンパッチなど、衿タブも人気のようです。
実用的な普段着、自分が着用するために織られていた程度のハリスツイードは、その品質管理の徹底から独自のブランドを築き、今でもツイードと呼ばれる生地の中でも最高位といえる地位を守り続けています。

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ハリスツイードの歴史

ハリスツイードは太古の昔から、スコットランドのアウター・ヘブリディーズの住民たちに織られていた、土地に根ざした民族の衣服、普段着でした。
この美しくて複雑な織り柄をした織物は、長い間優れた、贅沢な織物として知られていましたが、19世紀の中ごろまで、この
ハリスツイードは、地元住民が自分用に織って着用したり、地元市場でのみ流通されるのみに止まっていました。
このハリスツイードを産業として確立し、市場に広めることに尽力したのは、この島の領主ダンモア伯爵の未亡人、ダンモア夫人であったと言われています。
ダンモア夫人は、タータン柄をハリスツイード職工に複製させ、一族、友人らと共に、この島特産の布にすぎなかったハリスツイードをイギリス全土の商人が商う認知度の高い生地として育てあげました。
ハリツイードが広く知られるようになると、多くの人々に求められはじめ、1903年~1906年の間には新しい紡績工場の建設など工業化がすすむなか、アウター・ヘブリディーズ島の成功を利用しようとする人たちから、ハリスツイードの信用をそのイミテーションから護るために設立されたのが、ハリスツイード協会です。
1966年には生産は760万ヤードのピークに達し、王族や紳士階級、ハリウッドの映画スター、多くの有名なファッションデザイナーにまで愛されたハリスツイードは、赤じゅうたんやキャットウォークを華やかに飾ります。スコットランドの小さな島から生まれたハリスツイードは20世紀中ごろまでには、時間を超越した古典的な織物としての地位を確立したといっても良いでしょう。

ハリスツイード・ジャケット
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